春子の人形

スペシャルドラマ
花へんろ特別編「春子の人形」
第35回 ATPドラマ部門優秀賞
作・早坂暁
脚本・冨川元文
音楽・池辺晋一郎
語り・加賀美幸子
演出・平山武之
出演・坂東龍汰 芦田愛菜 尾美としのり 西村和彦 中西美帆 山本圭 田中裕子
制作統括・千葉聡史(NHK) 加藤邦英(プロジェクトGYO)
プロデューサー・伴野智(東北新社)武井哲
柴田正(プロジェクトGYO)渡辺康弘(プロジェクトGYO)
制作著作・NHK 東北新社
制作協力・プロジェクトGYO
早坂暁の最後の作品。自らの体験をもとにした、兄と妹との心揺さぶる物語。
昭和初期の四国、松山。お遍路道に沿った商家の軒下に、人形と一緒に赤ん坊が置き去りにされていた。 生活苦のお遍路さんらしい・・。この女の子は春子と名づけられ、少年・良介の3歳違いの妹として仲睦まじく育てられた。やがて戦争が始まり、16歳の良介(坂東龍汰)は、海軍兵学校に合格して瀬戸内の海を渡った。思案した母親・静子(田中裕子)は初めて春子に事実を告げた。「本当の兄妹ではない」と。兄にほのかな恋心を抱いていた春子(芦田愛菜)は無邪気に喜び、兄に会うために防府の海軍兵学校を訪ねるべく昭和20年8月5日広島に渡った。その翌日・・・原子爆弾が投下された。救援に向かった広島で終戦を迎えた良介は、故郷にもどるが・・・。
信じるものもなく、喪失感に苛まれ苦悩する良介は、ある決心をする・・・。
亡くなった妹のことを、早坂はずっと書くことができなかった。しかし、数年前から“これだけは未来のために書き残したい”と脚本に向き合い始めた。執筆を途中から冨川元文にバトンタッチ、冨川が原稿を書き終えた2日後この世を去った。人間の本質と社会を鋭い洞察力で描きつづけた早坂暁のいわば「人生の原点」を鮮やかに示す、遺作ともいうべきドラマ。
主な登場人物
富田良介(18) 坂東龍汰
松山の商家・富屋に暮らす主人公。憧れの海軍兵学校に入学するも敗戦。帰郷を余儀なくされる。無為な 毎日を送るなか、旅の劇団員のイチ子と出会い、惹かれていく。その瞳の奥に見たものは妹・春子の面影であった。
富田春子(12) 芦田愛菜
生後間もなく遍路路に置き去りにされ、勝二と静子のもとで良介の妹として育てられる。やがて自分を守ると言ってくれた良介に対し、淡い恋心を抱くようになる。そして兄に会うために山口県の防府へ向かうのだが…。
富田静子(43) 田中裕子
勝二の嫁で良介と春子の母。町に唯一の劇場・大正座の小屋主でもある。良介に対する春子の想いに気づき、優しく見守っている。だが、戦争の激化により、大切な家族の暮らしが時代の渦に呑み込まれていくことになる。
富田勝二(48) 尾美としのり
静子の夫で良介と春子の父。富屋の主人。どこかのん気なところがあり、店の経営が不安なときも句会に興じて、時に静子の不興を買うことも。家族を大事にし、混沌とする社会を余所に飄々と生き抜く。
天本イチ子(19) 中西美帆
興行のため大正座にやってきた旅の劇団の一員。空襲で家族全員を失い、懸命に生きてきた。そのためか、どこか陰がある。良介の純粋な気持ちに戸惑いながらもやがて惹かれ合う。しかし春子の存在を知り、ある決断をする。